アードナホー(アードナッホー)蒸溜所は、ブレンダー兼インディペンデントボトラーのハンター・レインによって2019年に設立された、アイラ島で9つ目の蒸溜所です。

アイラ島の北側の玄関口ポートアスケイグ近くのカリラとブナハーブンの間にある、ゲール語で「窪地の頂上」を意味するアードナホーという土地に蒸溜所は位置しており、水源はほど近いアードナホー湖となっています。
蒸溜所の目の前は海を挟んでジュラ島、通称「○っぱい山」がそびえています。

操業を始めてからまだ7年になるかならないかの新しい蒸溜所ですが、ウイスキー好きなら誰でも知っているハンター・レイン社が1200万ポンド(当時の為替で約17億円)を投じて設立しただけあり、新設の蒸溜所ながら伝統的なウイスキー作りができる設備が整えられています。
ボトラー設立の蒸溜所であることのメリット
アードナホー蒸溜所の特徴は、大きく分けて二つの要素に集約されます。
まず、この蒸溜所はインディペンデントボトラーでありブレンダーでもあるハンター・レイン社によって設立された点です。同社は長年にわたり数多くの原酒と樽を扱ってきた経験があり、原酒に与える樽の個性を見極める深い知見と優れた樽の調達力、そしてそれを支える資金力を備えています。
ご存知の通り原酒がどんなによくても樽がよくなければいいウイスキーは作れないので、樽の調達力は非常に重要です。ハンター・レインは自ら手配したバーボン樽やシェリー樽に蒸溜所の原酒を詰めてもらえる契約「フィリングコントラクト」を有名蒸溜所と結んでいて、OMC(オールドモルトカスク)やオールド&レア、ファーストエディションなどの有名ブランドから多くのボトルをリリースしてきました。
その経験と歴史から、スコットランドやアメリカのクーパレッジ(樽製造業者)やスペインの著名なボテガと親密な関係を築いており、比較的新しい蒸溜所にもかかわらず良質の樽を調達できる優位な立場にあります。
アードナホーで使われるバーボン樽はアメリカから直接輸入したアメリカンホワイトオークで、トフィーやハチミツ、バニラの香味をもたらします。オロロソシェリー樽はヘレスから直送されるヨーロピアンオークで、赤いフルーツやブラウンシュガー、スパイスの豊かで濃厚な香味をもたらします。
使われるシェリー樽がどちらかというと甘酸っぱさが強まるアメリカンオークではなく、最近入手が困難となりつつある、香木のような濃厚な香味をもたらすヨーロピアンオークなのは今どき本当に珍しく、さすがはハンター・レインと唸らされます。

また、そのボトラーとしての経験から、アードナホーでどのようなウイスキーを作っていくかというビジョンを明確に持ち、そのビジョンに沿って実際に理想のウイスキーを作るための製造・熟成方法への知見が深いという点においても他の数ある新興蒸溜所と一線を画しています。
伝統的な蒸溜所設計
第二の特徴は、新しい蒸溜所ながらも伝統的なウイスキーづくりを行う設備を備えていることです。
一番わかりやすい例として、ワームタブ式冷却を採用していることが挙げられます。ワームタブは、細い蛇のようにトグロをまいた銅製の管を水槽に張り巡らせ、再留で発生させたアルコールの蒸気をゆっくり冷却する、ウイスキーが密造酒であった時代からの伝統的な装置です。細くて長い管をメインテナンスするには当然手間がかかり、ゆっくりとした蒸溜が求められるため作業効率も悪く、外気温の変化で冷却効率が変化することもあり、1960年代後半に多くの蒸溜所ではシェルアンドチューブ式の冷却装置が主流となりました。
現在ワームタブを使う蒸溜所はアイラ島ではアードナホーだけで、他はタリスカーやモートラックなど限られた蒸溜所のみです。

ワームタブの仕組みは、こちらを見ていただくのがわかりやすいと思います。このぐるぐるの管、昔のスプリングバンクのローカルバーレイのラベルにも見られました。
面倒なワームタブを使うメリットは、原酒のボディが重厚になり、オイリーさやナッティーさに加え、いわゆる「ミーティー」なニュアンスがもたらされることです。
ラインアームから流れ込む蒸気が、タブに浸漬された大型の銅製のコイルの中で穏やかに徐々に凝縮されるため、より豊かな質感と複雑さが付け加えられます。また、長さが100mになることもある細い蛇管の内側にはサルファーの化合物が堆積しやすく、それがわずかに原酒に混入することもあります。ワームタブを使って冷却・凝縮された原酒には適度なサルファーが残りますが、それは必ずしも香味に対してネガティブに働くわけではありません。熟成中に樽材と反応することでバタースコッチのような甘く奥行きのある上質な香りへと変化し、酒質の重要な構成要素となります。また気温の変化により冷却効率が変化するため、フロアモルティングと同様にいい意味での「ムラ」ができ、原酒に複雑さを与えます。
またアードナホー蒸溜所のラインアームは、スコットランド中で一番長いと言われています。スティルとワームタブを結ぶ銅でできたパイプであるラインアームがやや下向きに設置されており、重厚な成分をワームタブへと運びやすい構造になっています。その一方で、下向きの長いアームでは気化したアルコールがスムースに通過しにくいせいでゆっくりとした穏やかな蒸溜が行われて、蒸気が再凝縮したり銅との接触時間が長くなるため、単に重いだけでなくフルーティーで豊かなピート香を持ったバランスの良い原酒が作り出されます。
製造工程は再び前後しますが、4つあるウォッシュバックはダフタウンで作られた伝統的なオレゴンパイン材のもの。発酵時間は65-70時間と比較的長めでフルーティーなウォッシュが作られます。

これらの設計により、伝統的な重厚さと現代的なフルーティさを両立した原酒を作ることが可能となっています。
こうしたボトラー由来の思想と伝統的な設備設計との融合こそが、アードナホーの原酒に独自の存在感を与えているのです。
ドイツ市場限定リリース シェリークォーターカスクでフルマチュアードされた特別なアードナホー「Càraid Ìleach」

というわけで、アードナホーのPXとオロロソのクォーターカスクボトルのご案内です。
どちらも濃すぎず薄すぎないとてもバランスのよい滑らかで美しいシェリー感が味わえる、飲み疲れず、ついついボトルを手に取って何杯も飲んでしまう、まだまだ冷える今の季節にぴったりの素敵なボトリングです。
ゲール語で「アイラのペア」を意味する 「Càraid Ìleach(カーリッヒ・イーラック)」 と名付けられたシリーズですが、アイラの人以外には発音が難しすぎるので「オロロソクォーターカスク」、「PXクォーターカスク」としてご紹介します。
ハンター・レインというかアードナホーならではの良質なシェリー樽、それもクォーターカスクでフィニッシュではなくフルマチュアード(全期間熟成)されました。
クォーターカスクは50リットル程度の大きさの樽で、原酒と木材との接触面積が大きくなるため、下手に熟成させるといわゆる「だくだくシェリー」、つまり原酒の個性を樽感が押しつぶしてしまうことがあります。
ですがさすがはハンター・レイン、OMCなどでお得意の50%加水で原酒のフルーティーさとピートスモークの個性を活かしながらシェリー感を高次元でバランスさせています。
テイスティングコメント
オロロソ・クォーターカスク
香りは出来立ての黒砂糖のコク深い甘さに、ブルーベリーやアプリコットジャムの果実香。
そこへ清涼感のあるペパーミントが重なり、甘さと爽やかさが共存する複雑な立ち上がり。
口に含むと滑らかに口中へ広がり、オロロソ由来のまろやかな甘味とグレープフルーツのほのかな酸味を舌に感じる。やがて魚介出汁のような旨味が現れ、黒砂糖のコクと絡み合い、味わいに奥行きを与える。
フィニッシュは舌の奥から喉にかけて、ねっとりとした甘味と旨味が長く持続する。
PXクォーターカスク
香りは華やかなローズウォーター、古い革装本の落ち着いたニュアンス、ミントオイルの清涼感、さらにオレンジピールのほろ苦さが重なり、甘美でクラシカルなアロマ。
口に含むと驚くほどストレスのない滑らかな甘味が広がり、オリエンタルな香木を思わせるクリーミーな質感へと展開。生クリームやレーズンバター、黒トリュフが入ったオリーブブオイル、オレンジチョコレートの甘苦さが層をおりなす。
フィニッシュは樽由来のわずかに収斂的なタンニンが全体を引き締め、オレンジチョコレートの甘苦さと見事なバランスを生み出す。
どちらもコマスピ中の人お気に入り、ぜひ飲み比べをお試しくださいませ。お買い求めはこちらからお願いします!


アードナホーの製造プロセス詳細は蒸溜所HPのこちら。
https://ardnahoedistillery.com/pages/our-process
ワームタブについてさらに詳しく知りたい方はSMWSのこちらをご参照ください。
https://smws.com/unfiltered/dive-into-the-worm-tubs



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